急変の話 その③ 〜気が付けないと重症となる兆候〜

急変

上代葉月は腕を組んで、ふむと考える。今回の急変した患者様とはあまり関わりはなかった。だけども懸命に立つ練習をしていた所は脳裏に浮かぶ。

上代 葉月
上代 葉月

なんだか急変するっていうのは言葉の一つではありますけど、いろんな原因があるんですね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。新規疾患の発症とも捉える事も出来るから、本当に多岐に渡る。いつもとはちょっと違う事でも敏感にならなければならない。例えばそうだな・・・いつもと同じように話している。だけども返答がなんだかおかしい。これもまた重大な急変の兆候とも言える。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

認知症の方や自分の症状の訴えをしっかり出来る人の方が少ないもんなぁ。頭がボヤってしてしまうって事はせん妄や、昼夜逆転なんかな?って考えてしまう事もあるしなぁ。

白波 百合
白波 百合

でももしそうではないと、大変っすよね。そういった意識に障害が起こるという事は頭の中の障害と言えるっすもん。

白波百合が何やらいつもより元気がない。多分その原因は回復期での急変というワードだろう。それにはきっと坪井咲夜も気が付いているのだろうと思う。でも山吹薫の表情からはそれは読み取れない。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。それが例えば脳卒中であるならば意識レベルもそうだが、手足が動きにくい、呂律が回らないといった局所的な症状も一緒に出る事が多い。そして電解質の異常や循環状態を左右する程の高度の脱水、もしくは糖尿病性ケトーシスといった事が原因となる時には認知症状や意識レベルの低下が主体となる。

白波 百合
白波 百合

ふむ。脳自体が原因の時には身体症状、それ以外に意識に影響を与える事象は認知症状っすか。一見分かりにくい時もあるっすけど、それでも重大っす。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

どちらにしてもすぐに治療が必要やもんなぁ。特に昼夜逆転傾向の人や認知症の人だったら分かりにくい事もあるし気をつけなあかんなぁ。

上代 葉月
上代 葉月

でもそういう人だからこそ体の異常を周りの人が見抜かなければいけないね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだ。意識レベルが変化する、ぼーっとした状態だけではなく、不穏といった形で出現する事も多い。体が苦しいがそれを訴えられない。だから行動で表すしかない。僕らだっていざとなったら分からないさ。

担当する患者様の急変は臨床にいる限りは少なからず有る。だけども状態が安定していると思っていてもそうでない事もまたある。難しいなと上代は思う。

山吹 薫
山吹 薫

もちろん脳卒中急性期でもそうだが普段から意識レベルには気を配る必要は当然ある。そしてそれは会話の中で拾う事もまた重要だ。今日が何日で、ここはどこでと言った見当識、こちらの運動指導に適切に答えられるかどうか。普段行えている事が出来ない。その初見は重要だ。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。何も脳血管障害だけではないっすもんね。意識障害を来す急変の原因はたくさんあると思うっす!他にも血糖値が異常に低下する低血糖や、肝臓に病変を抱えている人は肝性脳症・・・沢山あるっす!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

他にも呼吸不全が高度に進んで、体の中に二酸化炭素が過剰に溜まってしまっていても意識障害を起こすやんなぁ。

上代 葉月
上代 葉月

後はさっき山吹さんが言ってた高度の脱水も怖いと思う。だって私たちは患者様を起こしていく事をしなきゃいけないから、こう頭の方から足の方に血が行く訳で、頭に血が昇らないとそれで意識障害が進むって事も最初はありそうだもんね。

臨床で、少なからず運動療法を提供するという事は、反面リスクを伴う。何事にもそれはあるのだけど、この休憩室に来るようになってそれを実感したと上代は思う。本当に知らないと分からない事は沢山ある。

山吹 薫
山吹 薫

そしてその意識障害に随伴する身体初見の変化は力が抜ける事だけではない。他にも手が震えるや身体中が強直するように力が入り続ける事がある。振戦と痙攣。似たような言葉だが大きな違いが有る。振戦は特定に神経や筋肉が異常に活動しある程度規則的に生じる。そして痙攣は脳細胞に異常が生じ無秩序に動く事により規則性は失われる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

痙攣は脳血管疾患発症後にも現れるもんな!脳細胞の異常な動きで一部分かもしくは全身が震えて、多くは意識障害もまた生じるねん。そんで怖いのはその過剰な痙攣で体の酸素需要もがーって増えて、それで十分に脳に酸素がいかずに障害が進む事もあるねんな。重積発作て事やんな!

白波 百合
白波 百合

なら他にも瞳孔異常が無いか、意識レベルの変化は無いかといった評価も必要になってくるっすね!後はリハビリ中に起こったら倒れ込ま無いように安全な場所に寝かせるといった事もまた必要っす!

上代 葉月
上代 葉月

そっか・・・パーキンソン病の人は振戦が起きやすいし、その鑑別もまた必要だね。でも意識障害が重要なポイントになりそうですね。

でも私もすっかりとこの休憩室の一員になった気がするね。と上代は笑みを漏らす。そして回復期に居ると正直山吹さんの良い評判は聞かない。むしろ上の人ほど山吹さんを目の敵にしている風潮もあるのが不思議だ。

山吹 薫
山吹 薫

他にも全身性の炎症の進行によっても意識レベルは変化する。正直な所、急変の予兆は特に意識レベルの変化によって気付かれやすい。胸を押さえる、お腹を押さえるといった自身の症状を明確に訴えて頂く事の方が少ないと僕は思うよ。

白波 百合
白波 百合

だから、自分たち医療従事者が知って置かなければいけない事っすよね!何事もそうっすけど・・・全部覚えるのはやっぱり大変っすね。

上代 葉月
上代 葉月

でも普段と比べておかしい事はやっぱり何かおかしい兆候だもんね!遠慮せずに相談する事がやっぱり大切だと思う。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

でもこうやって話してると急変もとっても身近にあるもんやなぁ。お腹が痛いって事はイレウスや腸閉塞の予兆だったり、腹膜炎の発症だったりするやろ。覚える事は山程やんなぁ。何にしても。

っすよねぇ。と白波は肩を落とす。だけども随分と百合もまたそして自分も昔に比べると賢くなったような気がする。山吹さんと比べるとアレだけど。

山吹 薫
山吹 薫

ともかくいつもと違う。おかしいという事に気がつける感性は磨いて置く必要が有る。そして決して一人で対応しようとはしないように。

白波 百合
白波 百合

もちろんっす!先輩が居るっすから!大丈夫っす!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ほほぉ~ほぉ~。ええねぁ。素晴らしいのぉ。

上代 葉月
上代 葉月

ちょっと咲夜!それで・・・今回の急変の方って・・・どのような急変だったのですか?

山吹 薫
山吹 薫

上気道閉塞だよ。単純な言い方だと窒息だ。

その言葉に白波は体を固める。かつての自分の患者様が急変した理由だ。上代は白波の肩に触れる。きっと知らないと分からない。だけども知らないから許されるという事でもない。大丈夫だよという言葉に白波がうっす、と答えるのを上代は聞いた。言葉は僅かに震えていた。

白波百合のノート 109

・意識レベルの変化は必ずチェック!その低下こそ重要な急変の予兆になる。

・急変の理由は様々ある。お腹の痛みだって侮れない。いつもと違う事を必ず知っておく!

・向き合う事は怖いけど、知らなければいけないっす。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【総集編!!】

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

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